2008年12月2日火曜日

11月30日 親父

 突然、子どもたちのドミトリーから泣き声が聞こえてきた。そこには一人の生徒が泣いていた。その子は病気で土日とドミトリーでずっと休んでいた。そんな彼が突然泣き出したのだ。突然のことだったので、急いでドミトリーに向かった。他の先生はあんまり気にしていない様子だったが。
 
 “ Inauma・・・” 「痛いよ・・・」

 そう言って、腕を抑えていた。そこにはたくさんの湿疹(しっしん)があり、体中湿疹があった。その痛みから泣いていたのだ。話を聞いてる最中、ようやく他の先生が登場。「薬は飲ませてあるし、あとは寝るだけ」と言って、子どもを説得していた。確かにそうなのだが・・・。ある先生が更生院専門医に電話したが、その専門医も日曜日で来ないとのこと。まいったなあ。

 病気の時って心細いよなあ。広いドミトリーで一人っきりで寝てなきゃダメだし。そんな彼の泣いたことは、単なる痛みだけでなくそこに誰かがいてほしいってことだったんじゃないかな。

 そこで俺は家から、オレンジを切って袋に入れて持ってきた。普段はこんなことしない。俺自身、誰かにお金を渡したり、物をあげたりすることが嫌いである。絶対にそんなことしない。しかし、毎日の食事がそんなに栄養があるかというと、そうではない。もちろん病人食なんてないし、果物だってない。飲みものだって、水道の茶色の水だ。そんなこと考えてるうちに、無意識にオレンジを切って、その子のもとに持ってきていた。

 “Ukule, harafu upate Bitamin C.” 「食べて、ビタミンCをとりな」

 そういって、彼にオレンジを差し出した。彼は何も言わず無表情でそのオレンジをとった。そしてオレンジを食べ始めた。もったいない食べ方をする彼だが、オレンジの種を平気で廊下に捨てる彼だが、うれしそうな顔を何一つしない彼だが、最後にただ一言

 “Asante.” 「ありがとう」

 って言った。これでよかったのかなあと思ったが、これでいいんだと自分で納得した。他の先生も、自分の昼食のチャパティをちぎって渡したり、自分のパイナップルを渡したりしていた。ケニアの先生も彼のことを気にしてるんだと思ったとき、なんだか嬉しかった。

 目の前で困っている人がいたから、自然とその行動に出た。今回はオレンジをあげるという行動に。そしてそばにいるという行動に。わざわざ何かするのに、考え込むことはしなかった。自分がそうしたいからそうした・・・。それでいいんじゃないかな。

 おれは更生院の先生だが、更生院には親のいない子もたくさんいる。そんな子たちにとって単なる先生でなく、厳しい親父であり、ときどき優しく接してやれる親父でいようと思う。叱るときは叱る、心細いときには一緒にいる、いいことしたときには思い切り褒める、一緒にサッカーしたりして遊ぶ、そんな親父になろう。子どもたちを自分の子どもだと思って接しよう。何か大きいことをするのではなく、小さいことでもいいから、子どもたちにしていこう。子どもたちの中に、ほんの小さなことが少しでも残せるのなら。

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